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60 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:25:16 ID:msSdE8rQ0
んじゃ、投下する。
オーバーしたらすまん。
http://sogomatome.blog104.fc2.com/blog-entry-876.htmlより

№22の絵。
rano22.png




61 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:26:26 ID:msSdE8rQ0

 僕らの言葉が、こんなにも刺々しくなったのは何時だろう。

 誹謗も、悲観も、批難も、全部上手い具合に丸い形にして、笑顔の上にそっと乗せることを僕らが覚えたのは何故だろう。

 そうすることを皮肉などとなまいきに罵るのは誰だろう。

 僕らはヤマアラシ。幼いヤマアラシ。
 誰からも誰よりも愛されたい、そんな思いを抱きながら近づく。
 けれど。
 誰からも誰よりも嫌われたくない、そんな思いを浮かべながら遠ざかる。

 大好きな彼女がときたま嫌な顔をするのを見て、差し出した手を引っ込める僕。
 それが僕らのジレンマなのだと教わったのは、彼女の涙を初めて見た時で。

(-_-)「さようなら」

 僕が空に向けてそう呟いたのは、僕が体験した二十回目の初夏の時。
 空を舞う綺麗なホームラン。近くの野球場から聞こえてくる歓声をなんとなく眺めながら、僕は背中で彼女を感じていた。

 その時に、きっと、たぶん、おそらく。
 彼女はまた笑いながら泣いた。

僕は大人になってしまったようです


62 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:26:59 ID:msSdE8rQ0

 話をしようと思うんだ。
 拙い、思い出話を。


63 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:28:04 ID:msSdE8rQ0

 三年前。あれは高校二年生の夏。
 僕がでぃさんと出会ったのは、三か月ぶりに高校に帰ってきた時だった。
 出会った、という表現にはやや誤謬があるかも知れない。それなら、気付いた、気付かされた、と今の僕は正しく表現してみたい。
 世間一般的にひきこもりと言うあの時の僕。
 いつからひきこもりになったのだ? という問いの答えには諸説あるが、いじめがその答えの大半を占めるだろう。あとは、なにもかも面倒くさくなっただとか……結局いじめから来た考えが大半を占めていたはずだ。


65 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:29:29 ID:msSdE8rQ0

 早朝。僕は教室の扉を開けた。間もなく、僕に浴びせかかる視線はとりわけることもない事実。後続した僅かな沈黙はその証明。
 ああ痛い、痛い。だが、それだけだ。
 特に気にする必要も感じなかったのだ。それは僕が視線と沈黙を覚えたのはその一瞬だったから。その理由は後々知ることになるのだが。

 久しぶりに教室に訪れた僕が、とりあえず目にしたのは自分の机だ。それこそ丁寧に、教室の端っこに追いやられた僕の机。
 そう形容するのも躊躇わられるほど綺麗な机が教室に自然に置かれているのは、何故か酷く業務的に見えた。
 勿論、僕は席に着く。やや強制的なように覚えたのは、深く考えないようにした。

( ´∀`)「さあ、朝のホームルームを始めるモナよ」

 そうして僕の考えを汲み取るわけでもなく、一日が始まる。
 彼、担任のモナー先生は僕を学校に呼び戻した張本人だ。そのゆったりとした口調、絶えることのない笑みはモナー先生の性格を確かに表している。彼に対して多くの生徒が好感を抱いているのを僕は知っていた。

 そうでも、僕はモナー先生からふと向けられた視線から慌てて目を逸らしていた。理由は微笑みの上に映えたその温かさが、何故だか気持ち悪かったから。
 モナー先生が、僕が学校に来たことをクラスの生徒たちの前であえて口にしないのは、先ほどの視線と同じような優しさなのだろう。

 だが、不思議と。

( ´∀`)

(-_-)

 いや、相変わらず嬉しいなどとは思えなかった


66 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:30:44 ID:msSdE8rQ0

 昼休み。
 時間は何食わぬ顔で過ぎていた。

 チャイム、号令の後、テンプレ通りにざわめく教室。
 そこからやはり自然に追い出された僕は、何気ない様子で弁当箱を取り出す。
 久しぶりの学校での食事。勿論、思い出も何も無かったから懐かしいなどと思うこともなかった。
 そんな中で、僕はふと違和感を覚える。それは、前まで昼休みになる度に僕を嘲るジョルジュ君たちが目の前にいないことに対してではなかった。

(#゚;;-゚)

 真横に移した僕の視線。僕は誰にも何も悟られないように、箸を握っていた。僕の瞳に映ったのは、廊下側の一番後ろの席でただ座る一人の女子生徒。背筋は伸び、これまでかというほど無表情だ。


67 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:31:44 ID:msSdE8rQ0

 おかしいな。
 僕は目をぱちくりとさせて、もう一度その彼女を見つめた。そして、ほぼ同時に悟った。

 昼休み。屋上へ向かう生徒、机を向い合せて昼食と談笑に興じる生徒、そんな中で、二人のひとりぼっち。
 その二人は、僕ととある女子生徒。
 一方の僕は彼女を見つめ、その彼女は傷だらけの腕を擦り、何食わぬ顔で立ち上がると教室から出てゆく。

 すると、時を待ったかのように、教室のざわめきに混じる笑い声。嘲笑。

「でぃ、今日も昼ご飯ないんだって」

「へえーかわいそー」

 その最中で、僕が悟ったことはでぃという女子が標的なのだということ。そして。


 僕はその事実から無意識に目を逸らしていたこと、だ。

 皮肉にも、これがでぃさんとの出会いだった。
 
 
69 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:32:57 ID:msSdE8rQ0

「どうして此処にいるの?」

 それはその日の放課後のことだった。
 ちょうど校門を通り過ぎ去ろうとした時、背中に浴びせかけられた言葉。今にも掻き消されそうな声で、それでもしっかりと形を持った言葉。
 僕は最初それが誰に宛てた言葉なのか分からず、一度歩みを止めた。

(-_-)「…………」

 それからしばらく沈黙が続いた。だから、僕は再び歩き出した。

「待ってよ」

 すると、再び聞こえた声。
 今度は少し強い調子で僕の背中を非難するように響く。

 正直、その時の僕は怯えていた。
 今の対象は僕ではないにしても、いじめられていた時の記憶が蘇る。
 呼び止められるということは、僕にとって悪いことの前兆でしかなかったのだ。

 立ち去ろう。そんなことも考えた。
 けれど、先ほど呼び止められた感じは今までのものとは違うような気がした。
 からかうわけでもなく、怒るわけでもない、不思議な感じ。
 だから、か。僕は足を止めて、おそるおそる振り向く。


70 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:33:53 ID:msSdE8rQ0

 すると、そこにいたのは。

(#゚;;-゚)


 でぃさんだった。

(-_-)「……あ、あの」

 予想外の人物で僕は言葉を選ぶのに戸惑う。
 その時に背中に流れた汗は、決して夏の暑さのせいではないだろう。
 昼休みから今まで聞こえてきた、でぃさんの陰口が頭の奥から響いてくる。

 視線を逸らし、体裁を整えようとする僕。そんな僕をでぃさんはじっと見上げてくるものだから、しまいには顔が熱くなるのを感じた。それが恥ずかしさによるものだと気付くのは簡単だったが、体は正直で、顔の紅潮を抑えるのは難しい。
 それも、見つめられること自体の恥ずかしさではなく、もっと複雑な意味での恥ずかしさであるから、それに気付けば気付くほど顔が熱くなる。

 そんな中で、でぃさんの小さな唇が動いた。

(#゚;;-゚)「待ってたの」

(-_-)「えっ……?」

(#゚;;-゚)「あなたと話がしたかったから」

 僕は驚きを隠せなかった。
 でぃさんは終業の合図の後、真っ先に帰ったはずだ。そのあとに、嫌になるほど彼女の悪口を耳にしたから間違いない。
 当の僕はモナー先生に呼ばれていろいろと話をしていたから、帰るのは遅くなっていたのだ。その証拠に、今は校門にはほとんど人が見当たらず、夕焼けが僕とでぃさんを照らしていた。

 僕は夕焼けに映えるでぃさんを見つめていて、何かに気が付いた。
 その何かがいったい何なのかは分からない。

 けれど、僕はその何かを吐き出したくなり、口を開こうとする。
 その時、あたかもそれを遮るようにでぃさんは言う。

(#゚;;-゚)「ついてきて」


71 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:35:16 ID:msSdE8rQ0

 夕焼け空もいつしか暗闇に消え、そこに星空が現れ出すのかと思えばそんなことはなく、代わりに僕の瞳に瞬いたのはネオンの光。
 都市部で星が見えないのは、そこが明るすぎるからだと聞いたことがある。
 僕はその通りだなと思った。いや、その時にそう思う余裕があったのかは分からない。

 僕とでぃさんは夜の街を彷徨歩く。ときたま視界に入るいかがわしい看板で、男子高生らしい想像をしていたのは偽りのない事実だ。
 それでも、僕の前を淡々とでぃさんは歩くものだから、僕の変な想像もいつしか消えてしまったように思える。
 僕の耳に響くのは、夜の喧噪。罵声、歓声。
 ふと日中の陰口とそれらが重なり、思わず声が漏れそうになる。

(#゚;;-゚)「好きなの」

 僕が聞き直す前に、でぃさんは続けた。

(#゚;;-゚)「夜の街が、好きなの」

(-_-)「……ど、どうして?」

(#゚;;-゚)「強くいれる気がするから」

 その時、僕らは立ち止った。
 何処と名のつくわけでもない、ネオン街の真ん中で。

 僕に振り返るでぃさん。
 その顔には相変わらずの無表情が張り付いている。

 僕は知っていた。
 その無表情の中で、唇が僅かに緩んでいたことを。
 だから、僕はその時少し笑ってみせた。


72 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:36:16 ID:msSdE8rQ0

(#゚;;-゚)「ヒッキー君」

 壁にもたれかかる僕ら。夜空の代わりにネオンをぼんやりと眺める。
 でぃさんは僕を“ヒッキー君”などと呼んだ。僕の本当の名前は別にある。最初は首を傾げた僕が、これはいわゆるあだ名なのだと気付くのは早かったと思う。

(#゚;;-゚)「ひきこもりだからヒッキー君。良いでしょ?」

(-_-)「ああ……うん」

 言葉が見つからず、空返事をする僕。
 でぃさんの物言いは辛辣だったが、不快感は不思議と覚えない。

 聞いてくれ、聞いてくれれば嬉しい。でぃさんの言葉の裏にはそんな思いがあるような気がした。
 だからか、僕は相槌打ちながら話を聞いていた。

(#゚;;-゚)「私、いじめられてるの」

(-_-)「……知ってるよ」

(#゚;;-゚)「どうしてか知ってる?」

(-_-)「……知らない」

(#゚;;-゚)「それは私がヤマアラシだから」

(-_-)「えっ?」

(#゚;;-゚)「ヤマアラシの子供だから」


74 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:37:24 ID:msSdE8rQ0

 僕はわけが分からず、返事をするのも戸惑う。
 すると、でぃさんは付け加えるように、依然と呟くように言った。

(#゚;;-゚)「ヤマアラシのジレンマって知ってる?」

(-_-)「……なに、それ」

(#゚;;-゚)「二匹のヤマアラシが身を寄せ合って体を暖め合いたいのに、お互いの針が刺さるから近づけないって寓話」

(-_-)「……へえ、そんな話があるんだ」

(#゚;;-゚)「だから人間って、みんなヤマアラシだと思うの。大抵が大人の」

(-_-)「なんで?」

(#゚;;-゚)「みんな、大切な人に針が刺さらない場所を知っているから」


75 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:38:25 ID:msSdE8rQ0

 その時、僕はでぃさんへ視線を向けた。
 彼女は何気なく人ごみを見ている。
嬉しそうに笑う人々、悲しげに涙を流す人々、怒りに狂う人々、無頓着に過ぎ去る人々。

 彼らがヤマアラシなのだと言われれば、そうなのかも知れない。

(#゚;;-゚)「人はみんな本音っていう針を持って生きている。刺してしまえば、酷く傷つく鋭い針を」

 僕はでぃさんの体を一瞥した。
 彼女の体中の傷は“その針”によるものなのかもしれない。

(#゚;;-゚)「一方が針を刺せば、他方も傷つくの」

(-_-)「……でぃさんも?」

(#゚;;-゚)「そう。私は針が刺さらない場所を知らないから」

 ううん、とでぃさんは続ける。

(#゚;;-゚)「私は針が刺さっても近づきたくなる、甘えん坊な子供のヤマアラシだから」

 ああ、なるほど。僕は気付いた。

 でぃさんは嘘をつけない――本音を口に出さずにはいられない人なのだと。


76 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:39:10 ID:msSdE8rQ0

(-_-)「……僕は違うと思う」

(#゚;;-゚)「なにが?」

(-_-)「みんな、針が刺さらない場所を知ってるわけじゃないと思うんだ」

(#゚;;-゚)「どうして?」

「……答えになってないかもしれないけど、場所が分からずに苦しんでいる人はたくさんいると思うから。あと――」

 すると、僕は不意に笑みが漏れるのを覚えた。
 それが酷く自嘲的なものだということを知ってはいたのだが。

(-_-)「――現に僕は針が刺さらない場所を知らないから。僕は誰からも逃げてる。針が刺さらないように」

(#゚;;-゚)「それは自分に? 他人に?」

(-_-)「それはもちろん……」

 今更、何かを隠す気にはならなかった。横を見れば、傷だらけの顔の上にただ真っ直ぐ前を見据える澄んだ瞳。でぃさんは嘘を吐かない。
 だから僕は、自嘲も悲観もなにもかも吐き出した。

(-_-)「自分に決まってるよ」


77 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:40:08 ID:msSdE8rQ0

(#゚;;-゚)「それはつまり、傷つきたくないから」

(-_-)「そうだね」

(#゚;;-゚)「あなたは大人のヤマアラシなのね」

(-_-)「いいや。僕は子供だよ。少しずる賢くて、痛みを知っているだけだよ」

(#゚;;-゚)「あなたは本当に痛みを知っているの?」

 そんなでぃさんの言葉は、先程までの声色とは違う感じで口にされた。
 僕の横目で捉えられたのは、でぃさんのひそめられた眉と、少しばかり歪んだ唇。後続した歯ぎしりは、口内で止めようとされたようだが、僕にはそれがはっきりと聞こえていた。
 それこそまるで、皮肉のようだった。

(-_-)「……知らないよ。本当の痛みなんて」

 それでも、僕は言葉を止めない。瞳に映えた小さな傷が、たくさんの傷が本当の形になっていることを知っていても。
 むしろ、止められなかったのかもしれない。

(-_-)「だけど僕は――」

 すると間延びさせた声の先で、僕は違和感を覚える。
 何故だろう。針を突き刺すことを、本音を吐き出すことを躊躇う必要はないのに。

(-_-)「――“僕ら”は痛いことは知っているんだと思うよ」


78 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:41:04 ID:msSdE8rQ0

 僕は言葉で隠した。
 言うことを。言いたいことを。言わなきゃいけないことを。

(#゚;;-゚)「……そう」

 僕は引き下がってしまったのだ。
 宙ぶらりんと、行き場を無くした僕の片腕。小さな空中ブランコは、ぴくりと跳ね、汗をかき、指を数回折り曲げたり開いたりうちに、いつの間にかポケットのなかにすっぽりと体を埋めているのだ。

 僕は大きく息を吐く。
 それはでぃさんの反応への相槌か、また他のなにか。
 本当はため息だなんて、とても言えなかった。

(#゚;;-゚)「ヒッキー君」

(-_-)「なに?」

(#゚;;-゚)「今日はありがとう」

(-_-)「……帰るの?」

(#゚;;-゚)「うん」

 それでもでぃさんは、相変わらずの様子で僕に背を向ける。
 その動作は淡々と、淡泊としており、そのあまりの呆気なさに僕は戸惑いすらも覚えた。

 声が漏れる。それこそ嗚咽のような、言葉にならないうめき声。狼狽。
 片手は上がる。けれど、伸ばせない。僕の手が、“誰かが放った鎖”に絡みつかれているとは陳腐な表現だが、きっとたぶんおそらくその通りで。それが正しいと思っていて。思い込んでいて。思い込もうとして。
 その時の僕の表現にやや間違いがあることを知ったのは、いつになってのことなのだろうか。


79 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:42:03 ID:msSdE8rQ0

 思えばへたくそな理由だった。
 それでもその時の僕には、お誂えの意味だったのかもしれない。

 肩まで上げた片手をうまい具合に振って、紡ぐ言葉は決まっていた。

(-_-)「さようなら」

(#゚;;-゚)「さようなら」

 交わした言葉。声色は同じ。言葉も同じ。たぶん意味も同じ。想いも。
 けれど、僕の近くに、遠くの背中に残ったのは何故か二人のひとりぼっち。

 夏の夜は蒸し暑いはずなのに、今夜は何故か凍えるように寒いのだ。

 ああ、温めてほしいな。
 温めてあげたいな。
 でもごめんね。僕には出来ないや。

 手を繋ごうと、一緒にいようと、伝えようとしたことは掻き消される。
 星一つない夜空にフラッシュバックしたのは、でぃさんの悲しげな横顔。
 目が眩み、耐え切れなくなって、ネオンの光に視線を移せば少しだけ気が晴れる。
 そんな弱さも、彼女の強がりも、夜の闇に綺麗に溶けた。

 これがジレンマなのだと、気付いたのはネオンの光に誰かの涙が映えた時で。

 また耐え切れなくなり、目を瞑って、とりあえず僕は笑いながら泣いた。


80 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:43:16 ID:msSdE8rQ0

 それから、僕はでぃさんを見ていない。
 再び引きこもったことによることだろうが、そのあとに登校した時にもでぃさんを見ることは叶わなかった。
 ずっと、でぃさんは高校に姿を見せなかったのだ。
 そのことについて、誰かに聞くことが出来るわけでもなく、僕は一人で高校を卒業した。


 とりわけ学力があるわけでもない僕は、就職をしようとしている。今も、だ。
 死にたい、ああ死にたい。
 そんなことは何度思ったか分からない。
 それでも僕は生きている。

 不特定多数の他人が意図的に突き刺す針に、僕は幾度となく傷つく。
 それでも諦める理由にはならなかった。

 そんな日々が続いていたある日、今日、でぃさんと出会って三年後の夏。
 でぃさんから連絡がきたのだ。
 あまりに突然のことで、恥ずかしさのような何かと興奮が混じる感情を抑えられない僕。
 そんな僕に、でぃさんはただ一言「あなたと話がしたかった」と言った。


81 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:44:36 ID:msSdE8rQ0


 一通り話し終えた僕は、大きな息を吐く。
 それがため息だなんて、とても言えなかった。

(#゚;;-゚)「そんなこともあったね」

 でぃさんは笑いながら泣いていた。
 僕の知っているでぃさんは、もっとクールな感じだ。
 本音は吐くが表情は崩さない。ただ淡々と物を言う少女の姿が瞳の奥で瞬いたが、やはりすぐに消え失せる。

 変わってしまったのだという、述べるまでもなくある事実。
 でぃさんは自分を汚れてしまったのだと自嘲した。
 その汚れとはいろいろあるにしろ、社会から排斥されたようなお世辞にも綺麗とは言えない風貌と、濁ったその瞳は変わってしまったという事実の証明。
 それらを大人になったなどと形容することは、僕らはしない。

 そして、きっとたぶんおそらく“少女”はもう戻らない。


85 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:46:42 ID:msSdE8rQ0

(-_-)「諦めたのかい?」

(#゚;;-゚)「あなたもでしょ? 諦めるのは簡単だよ」

(-_-)「僕は弱さを諦めて強くなったよ。きっと」

(#゚;;-゚)「私は強さを諦めて弱くなった。たぶん」

 僕らはやはり笑ってしまった。

 かつて、傷つくのが嫌だった僕と傷つけるのが嫌だったでぃさんが一緒に笑っているのだ。傍から見れば、ジレンマなんて欠片もない。

 けれど、僕とでぃさんの間にはおよそ一メートルの距離。昼間の公園。温かい陽気の元で、離れてベンチに座る僕とでぃさん。
 近くにある野球場からどよめきが起こる。それはきっと打ちあがったフライに対して、何気なく漏れた声だろう。
 そんな中で、僕らの笑いは止まらない。

(#゚;;-゚)「なんで笑っているんだろうね」

(-_-)「僕らが傷ついてるからかな」

(#゚;;-゚)「そうだよね。でも、笑いが止まらない」

(-_-)「止めたいの?」

(#゚;;-゚)「止めたいよ」

 でぃさんは嗚咽の混じった笑いを飲み込もうとしながら途切れ途切れに、それでもはっきりと言った。

(#゚;;-゚)「傷ついて笑うなんて嫌だ。どうすれば良いの?」


86 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:47:42 ID:msSdE8rQ0

 僕は答えなんて知らなかった。

 その代わりに、口から漏れるのは笑い声だけ。
 だがそれもやがて小さくなり、僕らの笑い声が枯れた時には僕はベンチから立ち上がっていた。

(#゚;;-゚)「ヒッキー君」

 懐かしい声色。懐かしいあだ名。

(#゚;;-゚)「ひきこもりじゃないけど、ヒッキー君。そうでしょ?」

(-_-)「うん」

 端的に淡々と淡泊と返事をする僕。

 手は動かない。鎖に縛られたなんて陳腐な表現は此処にはない。
 小さな空中ブランコもない。元より、動く気はさらさらないような気がした。

(-_-)「さよなら」

 僕が空に向けてそう呟いたのは、僕が体験した二十回目の初夏の時。
 空を舞う綺麗なホームラン。近くの野球場から聞こえてくる歓声をなんとなく眺めながら、僕は背中で彼女を感じていた。

 その時に、きっと、たぶん、おそらく。
 彼女はまた笑いながら泣いた。


88 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:49:33 ID:msSdE8rQ0


「ねえ」

「うん?」

「今、傷ついた?」

「傷ついてなんていないよ。君は?」

「傷ついていないよ。全然……痛くないよ」

「手、繋げたね」

「通り越して、もう背中に抱きついてるけどね」


89 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:50:09 ID:msSdE8rQ0

「ねえ」

「うん?」

「一緒にいようよ」

「いいよ」

「よかった」

「ちゃんと、言えたね」

「うん」

 僕がでぃさんに向けてそう呟いたのは、僕が体験した二十回目の初夏の時。
 ちょうど本日は僕のバースデー。
 空を舞う綺麗なホームランはようやく落ちる。不意に浮かんだ微笑みと共に近くの野球場から聞こえてくる歓声を眺めながら、僕は背中で彼女を感じていた。


90 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:50:57 ID:msSdE8rQ0

 ああ大人だ。大人のハリネズミになってしまった。
 二十歳という年齢にうまい具合に合わせた形容詞は、誰かの皮肉にも聞こえた。
 それでも、構わない。
 ヤマアラシのジレンマは消えていた。
ジレンマにいつしか帯びていた愛着に対して、僕は言おうと思う。
その「さよなら」の代わりに。



僕は大人になってしまったようです






92 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:52:47 ID:msSdE8rQ0

ん、終わり。

ハリネズミのジレンマにしようと思ったが、それは某アニメの話だからな。
都合上ヤマアラシになったが、了承してくれると嬉しい。





94 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:54:39 ID:Q6U5OcNMO
ハッピーエンドで良かった乙!
このヒッキーはもげなくていい


97 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/05(木) 20:56:20 ID:nza4ZzUE0
乙!!
なんかいいな…
この二人には幸せになって欲しい


 
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