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※タイトルがなかったので、勝手につけさせて戴きました。


591 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 00:16:57 発信元:121.2.98.95



その日、どうしても暇がたまらなかったので、

私は原付を走らせ、かねてから気になっていた喫茶店へ行くことにしました。

思い立つと同時に、私は伊丹十三のエッセイをディーゼルの鞄に落とし込みました。

そうです。珈琲を片手に読書を洒落こむ魂胆です。

この日は新年を迎えて間もない頃でしたから、とうぜん外気は鋭い寒さを帯びていて、

原付に乗るときなんか、いくら厚着をしてもし足りないと思うほどでした。

しかし、喫茶店はそう遠くない場所に位置しているので、身体はなかなかの冷え具合になって、

暖かい珈琲がよりおいしく感じられる頃合いになったのでした。

           


594 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 00:19:40 発信元:121.2.98.95

その喫茶店は駐車場の一角に変わったスペースがありまして、それというのは

犬の居住区なのですが、いつ頃から出来たものなのかは知りません。

見たところシベリアン・ハスキーがその芝生のしげった居住区の中をうろついたり、あるいは

鼻をクンクンさせながら入店する客をつぶさに観察をしています。

それで私が柵のそばに立つと、人懐っこくしっぽを右へ左へと動かしますので、

なんだか歓迎されたような気分になって、気持ちよくドアを開けることができました。



ミセ*゚ー゚)リ「いらっしゃいませ」

可愛らしいウェイトレスがお辞儀をして迎え入れてくれました。

私は緊張を隠しながら、案内された席に坐りこみます。

                       


595 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 00:21:56 発信元:121.2.98.95

ミセ*゚ー゚)リ「御注文がお決まりでしたら、お呼びください」

( ^ω^)「あ、はい」

そうは言っても、注文のメニューは外出前から考えてありました。

アメリカン・コーヒーとツナ・サンドイッチの二つにしようと、値段まですでに計算してありました。

ただし、一人で来るのは初めての店だったので、計算は厳密には出来ていないのですが、

それでも八百円以内には収まろうという魂胆でした。

日経新聞なんかをテーブルの上に広げたりしながら、

煙草に火をつけて、それはもう、大人の気分でした。

私はまだ二十歳を越えていず、十九の身です。成人式もこのあいだ済みました。

早生まれのサガかは知りませんが、なぜだが私は人一倍、「大人」への強い憧れがあって、

大学に進学したとたん、煙草なんかを吸いだしたり、麻雀にのめり込んだりしました。

いまはまだ実家通いですが、資金がたまったら、すぐにでも一人暮らしを始めようと計画を練っています。

                         


596 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 00:26:08 発信元:121.2.98.95
友達が大学のために上京とかして、夜はバイト先のまかないで何とかこと足りているという

話をきくと、いまだ母親の手料理で舌鼓を打っている自分がとても惨めに思うのです。……

さて、あるていど時間が経ったので、さも今注文を決めたような素振りをして、ウェイトレスさんを呼びました。

前々から決めていたそれを頼んで、ふたたび日経に目を向けたのですが、内容は良く分りません。

すぐに、持参してきた伊丹十三のエッセイのことを思い出すと、それを取り出して、熟読しはじめました。

エッセイはとても面白く、キザで、それでいで実用的なものでした。

煙草が燃え尽きたのも気づかずに読みふけっていると、注文の品がやってきました。

サンドイッチをかじり、アメリカンを啜りながら、文面に目を通し続けます。

ジャガーをジャギュアといい、レタスを人造野菜だと揶揄し、サラダの真髄を語っている。

こんな大人になりたいものだと考えつつ、その人造野菜を挟んだサンドイッチを頬張りました。


有線からはボブ・ディランが流れています。店内はくすんだ色をしているが、洗練された空気が嬉しいです。

わたしは自分が十代だという感覚を完全に捨て去って、この連続的な一瞬を堪能しました。


598 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 00:30:19 発信元:121.2.98.95

( ^ω^)y~「………」

煙草はケントの1ミリのロングで、これは長く楽しみたい、かつタールがキツくないだろう

という思惑のもとで購入したものなのですが、しかし100sというのは中途半端なもので、

炎はすぐにフィルターまで走破してしまいます。

サンドイッチも食べ終わり、アメリカンもマグカップの底が見えるほどになりました。

エッセイも半ばまで読んだので、そろそろお暇しましょう、という気分になってきました。


( ^ω^)「……あれ」ゴソゴソ

違和感は鞄を漁っているときに発生しました。あるはずのものが――いや、

あるべきはずのものが、その鞄の中に仕込まれていないのです。

ガウンも必死にまさぐって、ジーンズも調べましたが、それは見当たりませんでした。

(;^ω^)「………」


財布を持ってくるのを忘れてしまったのです。
               


599 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 00:33:26 発信元:122.18.28.233
これは焦るなぁ…
 
 
600 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 00:33:42 発信元:121.2.98.95


どうしよう。

急に、世界から取り残されたような気持ちになってきました。

反射的にあたりを見渡すと、ほかの客はご老人ばかりで、さっきまでの自分と

似たようなことをなさっています。しかし、この老人たちは、代金を支払える。

従業員の方にも目を走らせましたが、自分はいわゆる「常連」でないことを、すぐに思い出しました。

ここはツケで、なんて大人なことは、自分には出来やしないのです。勇気などありません。


どうしよう。絶望感が、ざわざわと心の中でくすぶり始めました。

落ち着け、落ち着け。取り乱すまいとしますが、もう、心はそとのように冷え切っています。

私はすぐに携帯電話を取り出しますと、アドレス帳を表示させました。




601 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 00:37:34 発信元:121.2.98.95
その中の、地元の友達たちの区分をじっと眺めました。ここの代金を肩代わりしてくれそうな

人物を探しだしましたが、まず、地元を離れておらず、

移動手段を持っている条件を充たす人間となると、それはもう限られてきます。

それでも該当者に電話をかけましたが、こぞって電話に出なかったり、あるいは

どこかへ遊びに出掛けてしまっているという人たちばかりでした。


(;^ω^)「……母さん……」

無意識のうちに、お母さんと呟いてしまいました。たしか、母は今日はどこか出かけていて、

いまは家に居ないはずでした。それに……なんだか、気恥しい気持ちが押し寄せてきて、

候補にするのには躊躇われました。

なので、再びアドレス帳を開いて、助け舟を出してくれる人物を探したのです。

大学の連中も視野に入れました。大学は原付で片道二十分ほどですから、彼らだって、

その気になればこの喫茶店へはやってこれる……そんな考えでした。
        


603 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 00:40:53 発信元:121.2.98.95

寮の人、近くに下宿している人……彼らにも電話をかけたのでしたが、結果は、

地元の友達のと大差ありませんでした。彼らは全員、暇をしていませんでした。

ふたたび暗雲が心の中にたちこめました。携帯の電池表示も赤に切り替わって、

いっそう状況は悪くなってしまいました。座っているのに、立ち尽している気分なのです。


御冷は完全に溶け切りました。有線はボブ・ディランでなく、レッド・ツェッペリンを

流しています。屯していた老人たちも大多数はかえってしまって、客数はみるまに減りました。

この不況のあおりを受けてか知りませんが、ここは営業時間を短縮して、夜は完全に店じまいをします。

気がつけば、もうラストオーダーまで一時間を切っているという状況でした。

あの可愛らしいウェイトレスも、もう見当たらないのは、きっと勤務時間が終わったからでしょう。


私はとうとう、母親に電話をかけました。これで母までが断ってしまうと、店側に迷惑をかけることになります。

泣きたい気分で携帯を握っていると、母親が気だるそうに返事をしました。


604 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 00:45:14 発信元:121.2.98.95

繋がっただけで、私はほんとうに助かったように気がしました。なるべく平静を装って、話をします。

(;^ω^)白「あ、母さん……ぼくだお」

J( 'ー`)し『もしもし、どうしたの?』

声を返してくれた、聞き慣れた声が応答してくれる、それが本当に嬉しくてたまりません。

なんで母親に助けを求めるのが恥だと思ったんだろう、そんな気持ちになりました。


(;^ω^)白「あの、ぼく今喫茶店にいるんだけど」

J( 'ー`)し『うん、それで?』

(;^ω^)白「それで……その、財布……忘れちゃって……」


そこでひとしきりの、間がありました。それから、母親の苦笑する声がかえってきました。

J( 'ー`)し『バカねぇ……w』

と、呟きもしました。ぼくもつられて笑いそうでした。

でもそれより、泣きそうな気分で一杯です。


608 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:01:48 発信元:121.2.98.95
(;^ω^)白「ウン……そう、だから、、、お金持ってきてほしいんだお」

J( 'ー`)し『ハイハイw どこの喫茶店なの?』

涙声を必死に隠し通しながら、

( ;ω;)白「インターの……うん、そう……UCCの……」

そこまで告げ、よろしくと通話を切ると、安心感がドッと押し寄せてきました。

滲んだ涙を袖で拭いて、一息をつきますと、窓の向こうに広がる駐車場に目を向けました。

僕の坐っている席は幸いなことに、車の出入りを把握できる場所に位置していますので、

母がやって来れば、すぐに反応をすることができます。


助かった。これで、なんとか急場をしのげると思うと、煙草の一本とでもやりたい気分でしたが、

母さんにいつも「そんなもの吸うな」と言われているのを思い出しましたので、やめておきました。

                


609 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:02:46 発信元:59.135.38.141
母ちゃんは偉大


610 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:02:59 発信元:122.18.28.233
俺もこの状況だったら泣きそう


611 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:06:29 発信元:121.2.98.95

それからは、エッセイも読まず、新聞にも目を通さず、ただ窓の向こうを眺め続けました。

はじめはガウンも着て、荷物もまとめていましたが、なんだか従業員さんに見られると

恥ずかしい気持ちがしましたので、ガウンだけは脱いでおりました。


しかし、二十分もたつと、いてもたってもいられなくなりましたので、再び

ガウンを着まして、母の車が駐車するのを今か今かと待ちわびておりました。

もう一目を気にするような必要もないな、と考えたのはこの辺りでしょう。

会計のときに、どうしたって店員さんを誤魔化せるはずがないのですし、

財布を忘れるような僕が、いまさら体裁を気にしてどうなるというのです。


( ^ω^)!

そうして、見覚えのある車が僕の原付の隣に停車したのは、すぐのことでした。

                


612 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:10:02 発信元:121.2.98.95

母さんがやってきて、店内に入ろうとしましたので、僕もすかさず伝票を手にとって、

レジの方へ急ぎました。

母さんは僕に千円札を渡してくれましたので、僕はそれで会計をしました。

マスターと思われる男性は、さいしょは目をパチクリとさせましたが、

すぐに状況を把握されたのか、慣れた手付きで僕にお釣りを渡してくれました。

(´・ω・`)「230円の御返しです」

( ^ω^)「ありがとうございます、ご馳走様ですお」

ぼくはそう言い、母と一緒にその喫茶店を出ました。

空はすでに薄い黒いろを帯びておりました、入店時はさわやかな青空でしたのに、

冬の空の移り変わりは早いものです。風もいっそう強くなっています。

J( 'ー`)し「ほんとにバカなのねぇw」

母がぼくを見て笑っていました。ぼくは、照れ隠しをすることしか出来ませんでした。



613 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:10:45 発信元:122.18.28.233
カーチャン…


614 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:14:15 発信元:121.2.98.95

後ろ髪を撫でながら、ぼくは助手席に乗り込もうとするのを、母が驚いたように、

J( 'ー`)し「あんた原付でしょ、どうすんのよw」

( ^ω^)「アっ……」

つい無意識のうちに、母の車で帰宅しようとしていました。そこでも母に笑われ、

僕はまた、照れ隠しをしました。もう恥なんてありませんでした。


原付に鍵を差し込んで、ヘルメットを被ったときには、もう母の車は駐車場を出ていました。

このまま帰宅しようかな、それともコンビニにでも寄ろうかな。

そんなことを考えながらエンジンを掛けましたが、

すぐに、自分は財布を持っていないことを思い出しました。

免許不携帯でもありますので、やはり、そのまま直帰したほうが良さそうです。


615 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:15:48 発信元:59.135.38.144
親元暮らしの自分には身につまされる物がある……


616 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:16:37 発信元:121.2.98.95

道路に出てスロットルをまわしますと、久し振りに原付の楽しさを味わえました。

たかだか60キロですが、いまの僕にはこれで充分だなとすら思えました。

頬に鋭い外気がおそってきます。貫くような寒さなので、頬には赤みがさしているに違いありません。

( ^ω^)「………」

今日の出来事を、運転しながら反芻していき

ますと、自分の惨めさが、露わになってどうしようもありません。

そうして、財布を忘れたなんてありえないなとも思いました。

こんな自分が一人暮らしをしたら、すぐに生活が破綻してしまいそうです。

母親の助けがなかったらと想像します、一人暮らしなどまだまだだなと改めました。


               


618 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:19:14 発信元:121.2.98.95

( ^ω^)「……お?」

ふと気がついたのですが、自分のすぐ後ろにはパトカーが引っついていました。

またも、心臓がドキンと跳ねて、ぼくは緊張で構えてしまいました。


免許不携帯は何点だったっけ……この前の速度違反も合わせて、免停になるんじゃないか?

いろいろと考えがよぎりましたが、それらはすべて、杞憂に終わりました。



そのパトカーはご丁寧にウィンカーを出して僕を追い越しますと、

さっそうと私の前を走行していきました。

そうして、ぼくが信号でモタモタしているうちに、すぐにそのパトカーは闇夜に消えていったのでした。




                        (終)







621 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:22:50 発信元:121.2.98.95
投下終了、さるってすまんかった
これを投下しながら、母の日なんもしなかったことを思い出した
支援サンクスコ


622 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:23:02 発信元:122.18.28.233
乙!
文章が読みやすくて良いね


623 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:25:22 発信元:121.111.227.69
>>621
ちょっと質問
一行毎に行間を空けたのは敢えてですか?


625 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:27:29 発信元:121.2.98.95
>>623
そうですね
なんか、行間空けたほうが喫茶店的な空気になるかなぁとか
そんな魂胆があったようななかったような


627 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:32:52 発信元:121.111.227.77
>>625
なるほど。
そういうレスの見せ方もあるんだな、と勉強になりました


624 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:26:53 発信元:59.135.38.147
乙しかないのもアレなんで、ちょっとだけ批評

全体的に共感できる内容で面白かったけど
最後の警察の下りの必要性が分からなかったです
その前のレスで終わってても余韻があって良かったかもしれない


626 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/06/18(金) 01:30:27 発信元:121.2.98.95
批評サンクス
警察のくだりはラスト一行をどう締めようかで悩んで、
ありのままに書くことにした。余韻か……なるほど
作品の締めはいつも悩むのう


 
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