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97 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/05/16(日) 20:46:08 発信元:220.52.130.138

朝10時、待ち合わせのいつもの場所にあなたは来なかった。
一度も遅刻なんてしたことのなかったあなたを、どれだけ待っても来なかった。

良く言えばロマンチスト、悪く言えばクサいあなたのことだから、
もしかしたら入れ違いを狙って私のアパートにいるのかもしれないと思った。
そういえば合い鍵を作ったばかりだ、それを使っていつものようにわたしを少しばかり驚かせてくれるのかもしれない。
子供みたいなあなたの笑顔を思い浮かべて、アパートへの歩みは無意識のうちに早くなっていた。


予想通り、あなたは合い鍵を使ってくれていたようだ。

从 ゚∀从「……え?」

部屋の隅に置かれた三面鏡、その周りには愛用の化粧品やスキンケアグッズ。
その中に埋もれるようにしてそれは置いてあった。

“ハインへ”

ああ、そういえばこの三面鏡も、いつかあなたがプレゼントしてくれたんだっけか。




从 ゚∀从とあなたと線路のようです




98 :2/9 ごめんなさい付け忘れてた:2010/05/16(日) 20:47:43 発信元:220.52.130.138

从 ゚∀从「……えー……」

从 ゚∀从「つまり、どういうことだ」
从 ゚∀从「読み返そう、そうしよう」

三枚の鏡にあなたからの手紙を読むわたしが映る。
とても綺麗なあなたの字で書かれたそれは、私にとっていまいち意味の分からないもののように思えた。
すぐには理解が出来なかった。思考が、追いつかなかった。

从 ゚∀从「『もう一緒にはいられない』」
从 ゚∀从「『ほかに好きな人ができた』」
从 ゚∀从「『ごめ』」

ごめんなさい。謝罪の言葉で締めくくられた文章を声に出して読み上げてみる。
少しずつ染みていくその言葉の意味。
待ち合わせ場所に現れなかった理由。

从 ゚∀从「……フラれたのか」
从 ゚∀从「ん?捨てられたのか?……フラれたのか」
从 ゚∀从「フラれたんだよな」


99 :3/10 さらにレス数ミス。申し訳ない:2010/05/16(日) 20:49:09 発信元:220.52.130.138

あなたからのサプライズで嬉し泣きしたことは何度かあったな、と思った。
悲しいのに涙が出ない、なんて、よく耳にこそしていたけれどにわかには信じられなかったことが本当にあっただなんて。

从 ゚∀从「…………」

三面鏡に目をやった。映る私の頬にやっぱり涙は流れていなかった。
同時に光の当たっていない部屋を見渡し、慌てていたせいで閉めっぱなしだったカーテンに気付く。

从 ゚∀从「散歩行こっと」


そういえば今日は天気予報の通り、とてもいい天気だったのだ。
 
 
101 :4/10:2010/05/16(日) 20:50:07 発信元:220.52.130.138

服はそのまま手ぶらでアパートから出る。
安い家賃の変わりに目の前を通る線路のせいでたびたび騒音に悩まされているのだが、
それも慣れれば味があり風情があり、言い換えれば駅が近いというそれなりの立地条件ではあった。

街のはずれにあるこの駅は戦後、中心部へと向かう人々でごった返していたという。
それも今となっては住人そのものが街へと移り、駅員が立つアナログな改札と崩れそうな線路だけを残して佇んでいた。

从 ゚∀从「ん?」

駅の入り口に真新しい貼り紙。
廃線のお知らせ。
過疎と不景気に耐えかね、中心部を走る電車と駅の改装に伴い、ということらしかった。

从 ゚∀从「あちゃー、ま、無理もないか」

生活に必要な店は自転車で事足りる距離に揃っていたし、
あの騒音のせいで寝不足になることもこれでなくなるのだと少し安堵する。

ただ、なにか大きなものを同時に失くした、というような気がして、吐いた息が自然と溜め息に変わるのを感じた。


103 :5/10:2010/05/16(日) 20:51:16 発信元:220.52.130.138

せっかくだから、と線路沿いを散歩のコースに決定する。
この道をあなたの漕ぐ自転車の後ろに座って走ったこともあった。
手を繋いで歩いたこともあった。
あなたに薦められたアーティストの曲を聞きながら買い物袋を提げて一人歩いたこともあった。
電車に乗って帰っていくあなたをこの道に立って見送ったことも、あった。

从 ゚∀从「…………」

駅からアパートとは逆方向にしばらく歩くと、電車の行き先を3つに分かつ分かれ道がある。
その真ん中を行く線路が、あなたの住む街へと続く道だった。
線路を眺めながら、あの電車に乗って帰路につくあなたはなにを考えていたのだろうと思いを巡らせる。

こんな時、わたしはなにを思うべきか。
後悔を思うべきか、思い出に浸るべきか、はたまた自分勝手なあなたへの憎しみを思うべきか。
そしてこのまま電車に飛び乗ってあなたのところへ泣きつきにいくべきなのだろうか。

从 ゚∀从「……まあ、いいか」

心にぽっかり穴が開いたような、というよりは、埋まっていた心の部分から煙のようにじわじわと
なにかが消えて行っているような気の重みを感じた。
きっとそれはすぐに空気に溶けて、私の目にも見えなくなるのだろう。煙のように。



一瞬、涙が出そうな気がした。


107 :6/10:2010/05/16(日) 20:54:39 発信元:220.52.130.138

気が付けば陽は頭上で輝くのをやめていて、駅からも随分遠く離れてしまっていたようだった。

从 ゚∀从「いっけね」

幾分か速い足取りでアパートへの道を辿り、その間に携帯電話の電話帳からあなたの名前を削除した。
手紙で別れを告げたロマンチストのあなたは、もうこれに連絡をしてくることはないだろうと思ったからだ。
ただ、メモリーカードにバックアップしているあなたの番号はそのままにしておくことにする。

特に意味はなく、なんとなく面倒だから。面倒だからだ。



从 ゚∀从「……ふう」
背中にじっとりと汗をかいて、アパートの2階へ続く階段を上る。
今日の夕飯はなににしようか、なんて考えて、
ああもうスーパーへ行ってもあなたの喜びそうな料理を考えながら歩くことはないんだと気付いた。


そういう小さな変化にこれから少しずつ気付いていって、それが積もり積もって涙が出るのかもしれない、とも思った。


109 :7/10:2010/05/16(日) 20:55:40 発信元:220.52.130.138

从 ゚∀从「適当でいっか。あたし1人分だしな」

冷蔵庫を開けて中身を確認した後、カーテンを開けてもう一度三面鏡の前に座る。
あなたと会うまでお洒落の類にも興味はなく、メイクなんてもってのほかだったわたしにプレゼントしてくれたこれ。
今では人並みにファッション雑誌に目がいく程度になっていた。



鏡に映る3人のわたしは当然どれも同じ顔をしていて、この先のあなたがいない生活を同じように想像している。



さっき見た3つ又の線路を、思い出した。
3つの線路はそれぞれの電車と人をそれぞれ違う街へと運び、それぞれの生活を見送るのだ。

あの手紙を届けにきたあなたもきっと電車に乗って、この先のわたしがいない生活を想像したのだろう。
私の次に出会う人との幸せな生活を妄想したりもしたのかもしれない。


112 :8/10:2010/05/16(日) 20:56:42 発信元:220.52.130.138



从 ゚∀从



ああ、わたしにはまだ無理だ。
あなたがいない生活を想像して、その悲しさに静かに落ち込むことしかまだできない。


三面鏡に映る3人のわたしがそれぞれ違う道を歩めたらどんなにいいか。
あの3つに分かれた線路のように。
それだけの希望をわたしが持てたらどんなにいいか。



そのうちの1人のわたしはまたあなたと出会って、幸せな道を歩んでやくれないか。


从 ゚∀从「……」


いつの間にこんなにネガティブで陰気臭い妄想をするようになってしまっただろう、
あなたのロマンチストが変なところで移ってしまったとしたらいい迷惑だ。


116 :9/10:2010/05/16(日) 21:00:44 発信元:220.52.130.138

陽が落ちて薄暗くなってきた外を見て、そういえば今日はまだ郵便受けを見ていなかったと気付く。
電気代の請求がそろそろ来ているはずなのだ。
立ち上がって両手で頬を叩く。あなたがいなくてもきっとまた一人暮らしを満喫する、
それくらいの執着のなさは私にまだ残っているはずだろう。


線路の廃線をもしあなたとの別れの前に知っていたら、これからどうやってあなたに会いにいこうかと悩む私がいたはずだ。
腕を組む時間が減った分いいじゃないか。
そうだ今日は十分に良いことだってあったんだ。



玄関に備え付けてある新聞入れを内側から開けた。
チャリ、と金属音がする。

从 ゚∀从「あ」


真新しく銀色にきらめく鍵。
間違いなく、数日前あなたに渡したこの部屋の鍵。


117 :10/10:2010/05/16(日) 21:03:22 発信元:220.52.130.138


从 ゚∀从「そりゃな。もう必要、ないもんなあ」


別れを切り出したのはあなたなのだから。

大丈夫、もうあなたに会いにいくための電車も、電車に乗るためのあなたもなくなった。



从 ゚∀从「…………」



目の奥がツンと痛くなる。視界が滲む。
声をあげて泣けると思った。








118 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/05/16(日) 21:04:50 発信元:220.52.130.138
以上です。支援ありがとうございました。

地の文が多いことへの注意書きを忘れていました。申し訳ない

指摘感想などあったらお願いしまんこ
ハインちゃんとちゅっちゅしたいお

お題は
>>49廃線の決まった電車
>>64戦後
>>65三面鏡


120 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/05/16(日) 21:06:21 発信元:115.39.110.69


切ないな……
三面鏡と3つ又の線路の使い方がうまいと思った


121 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/05/16(日) 21:07:49 発信元:118.1.230.105
乙!お題の消化が上手いな


123 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/05/16(日) 21:08:47 発信元:116.94.149.245
乙!切ねぇ…


124 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/05/16(日) 21:10:50 発信元:119.230.64.81
乙!
こんな地の文が書いてみたい


127 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/05/16(日) 21:14:48 発信元:59.135.38.143
俺の出したお題がこんな切ねぇ話に……

激しく静かに乙



122 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/05/16(日) 21:07:53 発信元:111.86.141.148
乙!
ちなみに彼は誰だったの?


126 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね:2010/05/16(日) 21:12:27 発信元:220.52.130.138
乙くれた方々ありがとうございます
初の投下だったので緊張した

>>122
ぶっちゃけ決めてないのでご想像にお任せしたいところですが、
イメージとしてはモララーかギコかな?と

 
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